Wilkinson couplerの製作

pattern

高周波回路の設計に取り組む機会があったので、設計手法や調整のコツについて備忘録的にまとめてあります。私自身がまだまだ初心者ですので、これから取り組まれるかたの参考となれば幸いです。

テーマとしてWilkinson couplerを扱っていますが、カプラ自体の仕組みについては、より詳細な書籍や文書に譲るとして、ここではアマチュアが作成する場合のより実戦的な手法について記述していきたいと思います。

設計するスプリッタの仕様(目標)

ポート数3(2分配)
VSWR各ポート1.2以下
伝送損失4dB以下
ポート2-3間アイソレーション30dB以上
中心周波数1575.4MHz(GPS L1バンド)
帯域幅4MHz以上
サイズ成行き

基本的に、今回製作したいのはGPSレシーバーの分配器です。

バンド幅はステージ数を多くすると広くする事ができるが、今回はL1バンドのみに絞って製作してみることとした。最近のGPSレシーバーはGLONASSやGalileoにも対応していたりしますが、何れもL1バンドでのサービスが行われています。

基板はロスや大きさの面で高周波用のものを用いるほうが好ましいですが、テフロンやセラミックの基板はガラスエポキシ(FR-4)の基板の10-20倍の価格なので、性能を満足しない場合に検討することにしました。

回路概要

単純に2分配する方法は幾つかありますが、ポート2-3間のアイソレーションが十分でないと、局発の電波が互いに干渉して受信障害を起すという例が報告されていたので、アイソレーションがある程度取れ、仕組みが簡単なものとしてWilkinson couplerを選択しました。他に、Branch line, Rat-raceといった似た用途の回路があります。

Wilkinson couplerは図のような回路で、約70Ω(√2*Zo)のインピーダンスの1/4λの経路で分岐することで、インピーダンス整合が行われます。

P1-P2,P1-P3間は導通しますが、P2-P3間はP1側を系由して100Ωの抵抗の点で逆位相で打ち消しあうため、高周波的には50Ωで終端してあるのと同じになります。

シュミレーターの利用

UHFを超える周波数ともなると実際には、物理的な制限や様々な外部要因によって計算通りにはいかないだろうことが予想できたので、精度をあげるためシュミレーターを試してみることにしました。

この手のS/Wは趣味で使うには高価すぎますが、実際買うかどうかはさておき、Sonnetの評価版を使ってみました。最初はソフトの使いかたを覚える手間がありますが、パターンを曲げたり、調整様のスタブがどのように作用するのかを手軽に試せるのは便利です。

給電点は物理的に動かせないと仮定したので、各ポートに調整用のスタブを設けました。若干キャパシティブに作っておけば、スタブをカットして調整ができる予定です。

(恐らくテーパー部分の処理のせい?)で左右対象になっていませんが、気にせずに。

シュミレーション結果

Geometry

Analysis

製作

1.6mmの両面ガラエポ基板をカッターで切り、不要なパターンを剥して試作しました。手作業ですと、0.2mm程度の誤差は避けられないので、感光基板の方が再現性は良いでしょう。

シュミレーションとどの程度ズレるかが興味深いところでした。実際のところパターンは細くしすぎると取り返しがつかないので、太めに残してしまったのですが、それでもVSWR 1.5の円内には入っており、忠実につくればVSWR1.3には入れられると思われます。

試作基板では、初めスミスチャートの左下の領域(純抵抗少なくキャパシティブ)に位置していました。

測定結果

調整後の測定結果です。

反射特性

左からS11,S22,S33のVSWR特性


S11 smithchart S22 smithchart S33 smithchart

通過特性

左からS12,S23の減衰特性。S13はS23とほぼ同じなので省略。
帯域は十分広いですが、Isolationが24dBしか取れませんでした。目標値は下回ってしまいましたが、うまく調整すれば26dB程度になるので、悪くない性能です。
今回、局発の周波数が不明だったので、1.574GHz付近に合せていますが、局発の周波数を調べて、そこでIsolationが最大になるよう調整するのがベストです。

S12 Transmission Loss S23 Isolation

調整のポイント

調整にはネットワークアナライザを使います。発振器とVSWR計でも不可能とは言いませんが、かなり難しいでしょう。
信頼性のある測定機が使えれば良いのですが、手の届く範囲内でということで、VNATinyを使用しました。USBで接続して3GHzまで測定ができるアマチュア向のアナライザです。VNATinyの詳細は割愛しますが、後述の出力結果を見る限り、もう少し滑らかなグラフになるべきな気がしますが、共振点や傾向性は把握できるので調整には十分使えます。

先ずは、カット&トライで各ポートの反射特性S11,S22,S33が1に近付くよう調整していきます。測定対象外のポートはターミネータで終端しておきます。

VSWR 1.1位までは、S22,S33を合せていけばS11もついてくるので、Port 2,3のみ未手入ればよいです。互いに影響しあうので最後の方は全ポート確認しながら進めます。

スミスチャート上で、調整の結果、どの方向にどれだけ移動するかわかってくると手早く追い込むことができます。私がつくった回路では、次のように調整すると良いことがわかりました。

伝送損失やアイソレーションは最後に測れば良いと思います。

実機でのテスト

同一のGPSレシーバー2台をスプリッタで1つのアンテナに接続し、動作する事を確認しました。GPSレシーバーにはU-Brox社のNEO7Mが塔載されており、u-centerというユーティリティソフトを使用して、衛星の捕捉状態やC/N比をGUIで表示することが出来ます。(これでごはん3杯は食べられますw)
出来れば、信号強度を計測したかったのですが、GPSの受信信号は-140dBm程度と非常に弱く、26dBのLNA内蔵アンテナを用いても、手持ちのスペアナでは計測することができませんでした。

スプリッタを入れた場合と入れない場合でC/N比には大きな差はなく、干渉により障害が発生することもありませんでした。
この機種はDGPS(MSAS)に対応しているので、MTSAT(ひまわり)からの補正情報を受信します。GPS衛星よりも受かりづらいので、これらが受信出来れは問題はないでしょう。

u-center1 u-center2

考察

取りあえずは成功と言えそうですが、レシーバーの個体差の影響もあると思うので、全ての機種で問題が起きないかどうか微妙です。
特に気になるのは、Isolationが調整しても30dBに達しなかった点です。シュミレーターでもこの傾向は出ており、製作精度の問題ではなさそうでした。
これは、位相0と1/2λの信号が打ち消しあうという仕組みであるため、1/4λの経路を往復した方の信号が減衰して、完全には相殺出来無い為と考えられます。
試しに、テフロン基板でシュミレーションしたところ、50dBを超ましたので、ガラエポの基板の限界と思われます。
市販のHi isolation typeと呼ばれるものは30-40dbのIsolationが取れている様なので、この程度あれば十分と言うことなのでしょう。機会があれば、高周波基板を用いて試してみたいと思います。